東京地方裁判所 昭和62年(タ)397号 判決 1988年11月11日
原告
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
髙田敏明
被告
乙山太郎
主文
一 アメリカ合衆国カリフォルニア州ロスアンゼルス郡上級裁判所が、原・被告間の離婚請求事件(事件番号D―七五八〇七九号)につき、昭和四六年一月一三日にした「原告と被告とを離婚する」旨の判決は、日本国において効力を有しないことを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告と被告は、昭和三九年一二月二八日婚姻し、長男次郎(昭和四〇年一二月一〇日生)をもうけた。
2 被告は、昭和四六年一月一三日アメリカ合衆国カリフォルニア州ロスアンゼルス郡上級裁判所において、D―七五八〇七九号事件(以下「本件離婚訴訟」という。)に関し、「原告と被告とを離婚する」旨の判決(以下「本件離婚判決」という。)を得、同判決はそのころ確定した。そして、被告は、昭和六二年一月一二日、原告との離婚の届出をした。
3 しかしながら、本件離婚判決は、民訴法二〇〇条二号の要件を欠いている。
よって、原告は、本件離婚判決が日本において効力を有しないことの確認を求める。
二 請求原因に対する答弁
請求原因1及び2の各事実は認め、同3は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一<証拠>によれば、請求原因1及び2の各事実が認められる。
二1 <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(一) 原・被告は、婚姻後日本で同居していたが、被告は、昭和四一年末、当時勤めていた広告関係の会社を退職し、原告に対し、「見聞を広めるため米国へ旅行する。しばらくしたら帰国する。」旨告げて、同年一二月三〇日渡米した。
(二) その後しばらくは、被告から原告に対し便りがあったが、その後次第に少なくなり、ついに連絡が取れなくなった。
(三) 被告は、昭和四五年、米国の弁護士に依頼し、本件離婚訴訟を提起し、右弁護士により訴訟書類の受領に関する書面(乙第二号証の二、三)が作成された。
(四) 被告は、昭和四八年、原告と約一か月同居したが、本件離婚判決に関しては何ら告げぬまま、また原告と別居し、現在に至っている。
(五) 被告の戸籍簿には、昭和四六年五月三日にアメリカ合衆国カリフォルニア州の方式により丙川春子と婚姻し、昭和六二年一月一二日その旨の証書が提出された旨記載されている。
2 そこで、本件離婚判決が日本国において効力を有するか否かについて検討する。
(一) 民訴法二〇〇条の規定は、財産権上の訴えについての外国判決のみならず、外国裁判所の離婚判決についてもその適用を認めるのが相当と解されるところ、外国判決承認の要件の一つとして、同条二号は、「敗訴の被告が日本人である場合に公示送達によらないで訴訟の開始に必要な呼出しもしくは命令の送達を受けたこと又は応訴したこと」を要する旨規定し、当該訴訟において防御の機会を有しなかった日本人たる被告を保護しているのであるから、司法共助に関する所定の手続を履践せず、翻訳文も添付しない単なる郵送による送達のように、防御の機会を全うできないような態様での送達は、原則として、その適法性を肯認しがたいものというべきである。
(二) しかるところ、本件離婚訴訟の被告たる本件原告が同訴訟に応訴しなかったことは前示乙第一号証の二に照らし明らかであるが、前掲乙第二号証の二、三によれば、右離婚訴訟の原告たる本件被告は、西暦一九七〇年九月一七日、公証人の面前で、同訴訟に関する本件原告あての書類の受取人が本件原告本人であることが分かる旨の陳述をし、その趣旨を記載した書面(乙第二号証の二、三)が作成されたこと、右書面には、合衆国郵便局書式として送達に関する文書が添附されていること、さらに、右文書には、受取人欄に「乙山」なる印影が存在し、一九七〇年七月九日付けの牛込郵便局印があることがそれぞれ認められる。
しかしながら、前記1の事実経過が認められるほか、前掲甲第七号証及び原告本人尋問の結果中には、本件原告は、右印影に相当する印章に見覚えがなく、右日附の前後ころ右のような書面に捺印した覚えもない旨の記載ないし供述部分があり、かつ、他に司法共助に関する所定の手続の履践や翻訳文の添付等、本件離婚訴訟の被告たる本件原告が防御のための方法を講ずることのできる態様での送達を受けた事実を認めるに足りる証拠もないから、乙第二号証の二、三により認め得る前記事実のみによって、民訴法二〇〇条二号所定の送達があった事実を推認することは困難であるといわざるを得ない。
3 よって、本件離婚判決は民訴法二〇〇条二号所定の要件を具備するとは認められないのであって、したがって、日本国においては効力がないものといわなければならない。
三以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官尾方滋 裁判官山﨑まさよ 裁判官岩木宰)